研究紹介

概 要
 二酸化炭素(CO2)削減の観点から,CO2を分離・回収し,貯留または利活用する既存技術の高度化や新規技術の開発は化学プロセスにおける解決しなければならない課題の一つです。本研究室では,圧力・濃度の低いCO2ガスを可逆的且つ化学的に吸収・脱離できる環境低負荷な吸収液・技術の新規開発と,NMR法による反応機構の解明に取り組んでいます。また,CO2を化学的に利用した有価物として尿素,炭酸エステル類,アミノ酸などに着目し,それら化合物を用いた環境低負荷な液体溶媒の新規開発と,NMR法による生成機構や静的構造・動的挙動の解明も進めています。
1.新規なCO2化学吸収液の開発と反応機構の解明
 CO2化学吸収液として広く知られているアミン水溶液については,その高い腐食性と揮発性が問題となっています。近年,イオンのみから構成されるイオン液体(ILs)や,2種類以上の物質から生成され,ILsに類似の性質を有する深共融溶媒(DESs)が揮発性の低い液体として注目されています。本研究室では,CO2ガスに対して化学吸収性を示すILsやDESsの開発に取り組んできました。これまでに,ルイス塩基性アニオンを用いたILsや,固体塩基を用いたDESsの調製に成功し(下図),それらがCO2ガスを化学的に吸収することを明らかとしました。最近では,アミノ酸やその塩を反応基質とする水溶液の開発と,NMR法による反応機構の解明に取り組んでいます。また,水溶液中に吸収されたCO2ガスを脱離できる非加熱技術の探索にも取り組んでいます。
キーワード:二酸化炭素,核磁気共鳴法,深共晶溶媒,イオン液体,アミノ酸
2.有価物を用いた新規な液体溶媒の開発と生成機構や静的構造・動的挙動の解明
 尿素、炭酸エステル類、アミノ酸,ギ酸などはCO2を原料として化学反応により得ることができる有価物です。我々は,CO2ガスの利活用や固定化の意味から,有機溶媒の代替となり得る,それら有価物を用いた低揮発性液体溶媒の探索を重要と位置づけています。本研究室では,それら有価物を用いたDESsや溶媒和イオン液体(SILs)の開発に取り組んできました。これまでに,尿素やアミノ酸を用いたDESsや,炭酸エステル類を用いたSILsの調製に成功し(下図),分子間相互作用や動的挙動について検討しました。また,環境・エネルギー分野で注目されているギ酸の水溶液について,分子レベルにおける静的構造や動的挙動(回転,並進)の解明を始めています。
キーワード:深共晶溶媒,イオン液体,尿素,炭酸エステル,アミノ酸,ギ酸,核磁気共鳴法